第16話 情報と役割

                                

 大型の液晶テレビの画面には、世にも奇天烈な特撮映画が映    

し出されていた。

 低いアングルから映されているものの、怪獣役を演じている    

のはお洒落な制服に身を包んだ巨大少女であり、そんな彼女を    

止めようとしているのは普段着姿のまま巨大化した二人の少女    

だったからである。

 三人の少女たちは山間の集落を破壊するのも構わずに大暴れ    

し、全ての建物を壊滅させていったが、デジタルビデオカメラ    

は冷徹にただ事実だけを記録していた。

「素晴らしい映像だ。これだけでも君にはボーナスを支給しな    

 いといけないな」

 テーブルに置いたコップにコーラを注ぎながら、マツキは朗    

らかな声で遠縁の親戚に当たる少年に話しかけた。

「君の知り合いにあの映像作家のタマキの息子がいたのは実に    

 ラッキーだった。よくこの映像を手に入れたものだ」

「俺は何もしていない。ただコピーするように頼んだだけだ」    

 テレビから目を離さずに少年……速人が答える。

 正確には脅し半分コピーさせたのだが、もちろんその事は言    

わなかった。

「経過はどうでもいい。君にはボーナスを支給するようにボス    

 に頼んでみよう。そうだな……一万ドルといったところか」    

「金には興味が無い」

「君が本当に欲しいのは情報だな」

 集落を派手に破壊しながら、瑞穂を止めようとする佳奈の映    

像を見ていた速人の眉がかすかに動いた。

 それに気づいたマツキは寛大な微笑を浮かべて、少年が一番    

欲しかったものを提供する。

「まあいい。ついでに教えておこう。もう一人の<巨大妖精>    

 は生まれた時からこの集落に住んでいる。両親とは死別して    

 独り暮らし。一般的な情報はそれだけだ」

「もうそこまで分かったのか?」

「ダークポラリスの情報部門は世界で一番優秀だからね。問題    

 は<巨大妖精>の背後にいる存在だ。……まだ推理に過ぎな    

 いが、ずばり悪霊(アモン)だな」

「アモン?」

「正確な言葉が出てこないのでアモンと呼んでいるが間違いは    

 無いだろう。……映像を良く見るといい。たまに巨大妖精の    

 背後に影が見えるだろう?」

 速人は何も言わずに頷いた。

 実は集落で瑞穂が暴れている時にも、わずかに見え隠れてい    

たので気になって、晶から映像を貰ったのだった。

 もっとも、その直後に待ち構えていたかのようなマツキに会    

って、そのまま彼の住むマンションにまで案内されたのは誤算    

の極みだったが。   

「まだ調べはついていないが、アモンの類で間違いない。その    

 正体さえ分かれば謎は解けるはずだ」

「本当に分かるのか?」

「だったら君は守護巫女がどうして巨大化するのか知っている    

 のかな?」

 返事が見つけられず、速人は目をそらした。

 優位を悟ったのか、マツキはわずかに目を細めると既に調べ    

ていた事実を公表する。

「守護巫女は稲穂神社で儀式を受けて能力を身につける。それ    

 に力を貸しているのは名前の無い謎の女神だ」

「……謎の女神?」

「そうだ。表向きは日本神話に出てくる女神だが、実際は外か    

 ら来た女神だ。その女神の正体も実は当たりをつけている」    

「もう分かっているのか?」

「中央アジアのタンギスタン共和国に伝わるおとぎ話が関係し    

 ていると我々は予想している。その女神は少女に巨大化能力    

 を授ける上に、東の国に旅立っているからだ」

「タンギスタン?」

 最近聞いたような国の名前に、速人は再び眉をひそめた。

 あれは確か……。

「この街にも料理店があるだろう? あれは表向きは普通の店    

 だが、経営しているのはタンギスタン国軍情報局……TIA    

 の連中だ。気をつけた方がいい」

「ダークポラリスよりはマシだ」

「中途半端に小さい諜報組織だから危ない。タンギスタンは半    

 独裁制だから権力者の意向が全ての国だ。最悪、とんでもな    

 い手を使ってくる可能性がある」

「なぜそんな奴がこの街にいるんだ? 奴らも守護巫女が目当    

 てなのか?」

 いつの間にか、速人は映像そっちのけでマツキを問い詰めて    

いた。

 色々な意味で気に入らない遠縁の親戚だったが、もたらす情    

報に関しては信頼が置けると知っていたからだった。

「まず間違いないだろう。大方、大統領が欲しがっているのだ    

 ろう。守護巫女に武装させれば空母にも匹敵するからな」

「空母……。それ以前に武装なんか出来るのか?」

「それ以上はトップシークレットだ。知りたければダークポラ    

 リスに入る事だな。君は優秀そうだから以外と出世するかも    

 しれない」

 半分ぐらいは本心で言ったつもりだったが、速人は鼻を鳴ら    

しただけで目をそむけてしまった。

 父親の経営している小さなリサイクルショップを継ぐと公言    

しているのを思い出して、マツキは話題を変える。

「ところで、君はもう一人の巨大妖精とも知り合いだったな」    

「……大事な客だからな」

「それなら都合がいい。もう一人の巨大妖精……瑞穂の監視も    

 続けて欲しい。まあ、監視する事になると思うが」

「監視はする。その代わり、情報は提供しろ」

「分かってる。それは約束しよう。君も動き易くなるはずだか    

 らね。情報を守護巫女たちに流せば信頼も得られるはずだ」    

 最後までお前たちの思い通りに動くつもりは無いけどな。

 速人は心の中だけで付け加えた。

 幾ら父親の為とはいえ、幼なじみまで売るような真似はした    

くなかった。

「……しかし、君は今年の守護巫女とはどんな関係なんだ?」    

「何の話だ?」

「幼なじみとは聞いているが、親しいようには思えなくてね。    

 うちのボスも不思議がってたんだ」

「ほっとけ」

 マツキどころか、顔も知らないボスにまで気にかけられてい    

る事実が面白く無かったので、速人は吐き捨てるように返事し    

ただけだった。

 しかし、本当の気持ちは自分自身よく分かっていなかったの    

だった。