「おーい、紫。ここ……どこなんだ?」
さすがにきょとんとして、霧雨魔理沙はどこかで自分を見ているであろ
う八雲紫に呼びかけた。
一部を三つ編みにした金色の髪の上にちょこんと黒い三角帽子を被り、
白いブラウスの上から黒のベスト、これまた黒いスカートに白のエプロ
ンを着込み、足元は白の三つ折りソックスに黒いパンプス。
全身を黒と白で固めた魔法使いの少女は身長約50メートル以上に巨大
化して、現代日本の街並みの中央に立っていた。
道路には車がぎっしりと詰まり、魔理沙の周囲にはその背丈よりも低い
ビルなどが立ち並んでいたが、人の気配は感じられなかった。
「突然悪いわね。ちょっとしたゲームを楽しんでもらいたくて招待した
んだけど……」
返ってきたのは、含み笑い混じりの声だけだった。姿を見せようとしな
いスキマ妖怪に、さすがの魔理沙もむっとなる。
「ゲームだぁ? こんなにでかいのに何をしろっていうんだ?」
「決まってるじゃない。その街を完全に破壊して欲しいのよ。その街は
どこにも存在しない架空の街。ゲームの為に特別に用意したんだから」
「これ……街なのか。言われてみるとそうだな。香霖んとこの本で見た
ぜ。ビルディングとか、車とか、鉄道とかなんでもあるな」
「ルールは簡単。弾幕やスペルカードを使わずに自分の力だけで壊滅さ
せること。破壊力だけじゃなくて、その壊し方や美しさも評価の対象に
なるわ」
「なんだそれ? そんなゲームあるのかよ?」
「私が今作ったの。貴方はその実験台というわけ」
魔理沙は何も言わずに周囲を見回し、巨大化した自分の身体を確かめた。
ここまで大きくなれば、弾幕無しでも街を壊滅させる事は簡単だろう。
「ついでに言うと、どんなに大暴れしても貴方は傷一つつかないし、炎
を浴びても熱さも感じないわ。言いたい事は分かるわね」
「つまり、とことんまで暴れ尽くせって意味だろ?」
「ご名答」
魔理沙の口許に、いつもの不敵な笑みが浮かんだのはその時だった。
元々自分の力を見せつける事が大好きな少女である。
ここまで挑発されて乗らないという選択肢は無かった。
「だったらやってやるぜ。完全に壊してもいいんだろ?」
「もちろん。だったらさっそく<街壊しゲーム>スタートね」
紫の言葉を合図にして。
巨大化した魔理沙はその心に秘めていた破壊衝動を躊躇うことなく全開
にした。

最初に壊したのは、足元の道路に停まっている車だった。道路を陥没さ
せて立っていたものの、そのまま無造作に歩き始めたからである。黒い
パンプスの下で簡単に車が潰れていき、白い靴下に包まれた足が電線を
断ち切って火花を散らしたが、まったく気にならなかった。
「簡単に壊せるんだな。ま、これだけ大きくなってれば当然か……それ
っ!」
言うのと同時に、巨大化した魔理沙はボールでも蹴るかのように足元の
車を全て蹴散らした。複数の車などが宙に舞い、落下しては被害を拡大
させたが、魔法使いの少女はその場に膝をつくと、手で壊れた車をかき
集めてさらに叩きつけてしまった。
「意外と脆いんだな、車って。しかも爆発するしさ」
「酷いことしてるわね」
「それを期待してんだろ?」
紫の返事よりも早く、立ち上がった魔理沙は通りに面したビルに襲いか
かっていった。まずはドロワが丸見えになるのも構わずキックを食らわ
せる。二回、三回と繰り返して建物がまとめて瓦礫になったのを確かめ
ると、そこに足を踏み入れて今度は半分壊した建物に足を振り下ろして
は壊していく。
「幾ら巨大化してるたって弱過ぎるぜ!」
口ではそう言いながらも、無邪気に笑った魔理沙はまだ壊していなかっ
たビルを土台ごと持ち上げてしまった。あまりの軽さに戸惑ったが、す
ぐに目についた大型のマンションに叩きつける。轟音と共に、建物は周
囲を巻き込みながら崩壊してしまう。
それで一段と勢いがついたのだろう。やんちゃな少女魔法使いは瓦礫を
蹴散らしながら走ると、何と巨大化した自分よりも大きなビルに肩から
体当たりしてしまった。十分に体重の乗ったその一撃に耐えられず、ビ
ルは中程から折れて瓦礫と化す。
「まだまだ始まったばかりだぜ!」
壊し残した部分を足で蹴散らして、魔理沙は高らかに宣言した。
最初から全開で大暴れしていたが、その破壊衝動は高まるばかりで最早
誰にも止められなかった。
住宅が密集する地区をパンプスと靴下に包まれた足で蹂躙して壊し尽く
す。
大型の電線塔を引き抜いてそれを武器に周囲の建物を壊す。
高架の道路を見つけると、土台ごと持ち上げて別の部分に叩きつけて、
車ごと壊滅させる。
快活な笑みさえ浮かべた巨大少女の破壊活動によって、架空の街は少し
ずつ瓦礫の山となっていく。
「次はこれを壊してやるぜ!」
完全に破壊された地区の中央に立っていた魔理沙だったが、新たな<獲
物>を見つけたのはその時だった。手にしていた高圧電線塔をぐしゃぐ
しゃに潰して投げ捨てると、足元で車を派手に蹴散らしながら向かって
いく。そこにあったのは鉄道の高架線だった。
「あら、それまで壊してしまうのね」
「当たり前だろ? 私に壊せないものはないぜっ!」
言い切った瞬間、魔理沙はスカートを豪快に翻してジャンプした。その
まま、ドロワに包まれたヒップで高架線を押し潰す。電車も止まってい
たのだが、まったく気にしていなかった。
「これが電車か……。壊すのにはちょうどいいぜ」
ドロワが半分見えたまま、足を伸ばして座り込んでしまった魔理沙だっ
たが、その破壊劇は止まらなかった。電車の編成でまだ無事だった部分
を片手で掴むと持ち上げてみせたからである。
「遊ぶのにはちょうどいいな……。でも今日は全部壊してやるぜ!」
巨大化した少女の力によって、電車の編成が二つにちぎられたのはその
時だった。片方は重力に従って魔理沙のドロワやスカートの上に落ちた
が、もう片方は笑いながら無傷の地区に投げつける。そこにあったのは
……可燃性のガスが大量に詰まったガスタンクだった。
次の瞬間、大爆発が発生して、さすがの魔理沙もびっくりした。慌てて
立ち上がろうとして瓦礫を引っかけ、そばにあったマンションに肩から
突っ込んでしまったからだったが、すぐに手で建物を壊しながら立ち上
がる。
「あーあ。とうとう炎上しっちまったぜ。悪い事をする奴もいるもんだ
な」
帽子の角度を直しながら平然とつぶやくと、爆発によって発生した炎の
照り返しを受けながら高架線を壊して歩く。不思議な感覚に思わず笑み
が浮かんだが、大型の駅が行く手を塞いだのを見ると、また破壊衝動が
爆発した。
まずは高架線の上にあった電車を掴み上げる。あまりに軽かったので驚
いたが、すぐに編成ごと駅目掛けて叩きつける。途中で架線に引っ掛か
ったのであまり飛ばなかったが、駅の中心部に落下して周囲を破壊する。
それを見るなり、魔理沙は勢いをつけて歩き出した。スカートから伸び
る足だけで高架線を壊しながら、駅ビルに手をかけて力だけで潰す。そ
の瓦礫が駅のホームにも降り注いだのを見ると、笑いながらキックを食
らわせてめちゃめちゃにしていく。駅だけに複数の電車などがあったの
だが、全部魔理沙の破壊衝動を満たす為に壊されていく。
「とうとう壊してしまったぜ。原形も……残ってないな」
自分の周囲に無事な建物などが無い事を確かめて、魔理沙は満足そうに
笑った。かつては駅があったはずの場所の中央に、瓦礫を踏み潰しなが
ら立っていたのだが、当たりは酷い状態になっていた。
高架線の大型駅は全部破壊されて瓦礫の上に電車の編成などがめちゃめ
ちゃになって引っ掛かるだけだったし、傍にあった車両ヤードも巨大な
パンプスによって蹂躙されて全ての車両が潰されている。そして、駅に
面していた広場や建物もまた、魔理沙が力任せに引き抜いた高架線の直
撃を受けて壊滅していた。
「いい壊し方ね。でもまだ物足りないんじゃないの?」
「当たり前だぜ。全部壊してやるぜ!」
快活な少年のように笑って宣言すると、魔理沙はさらに大暴れを続けた。
駅に面した商業地区は商店街のアーケードを引き抜いて武器にして壊し
た挙げ句、キックを食らわせて壊滅させる。
大きな遊園地は観覧車やジェットコースターのレールを引き抜いておも
ちゃにしてから、それを武器に破壊し尽くす。
港やそこに面した工場地帯は、化学プラントを破壊して大爆発を起こす
と、徹底的に踏み潰す。それでも満足できなかったので、海に入って吊
り橋を壊して武器にすると、それで止めを刺してしまった……。
「あーあ。全部壊してしまったぜ……」
巨大化した自分の背丈ぐらいの高さのある吊り橋の主柱を手にしたまま
、魔理沙は満足したようにつぶやいた。服が濡れるのも構わなかったの
で、スカートの裾まで海につかっていたが、それでも不思議と絵になっ
ていた。
「でも物足りないんだよな……。やっぱり、私といえばこれだぜ」
主柱を投げ捨てて、魔理沙はどこからともなくミニ八卦炉を取り出した。
これを武器にする事といえば、一つ……。
「街壊しゲームの止めはこれに限るぜ。恋符……マスタースパーク!!」
紫が止める間も無かった。
魔理沙の得意技にして、最大のスペルカードによる攻撃は巨大化しても
忠実に再現されて……それこそ架空の街を土台から吹き飛ばしてしまっ
たからだった。
……。
その後。
魔理沙の元にはゲームのスコアが通知されたが、ルール違反の咎で「0
点」だった。
それでも、ゲームの楽しさが忘れられなかった魔理沙は、街壊しゲーム
用の架空の街を作る研究を始めたという……。