日本でも有数の企業集団「黒崎グループ」。その総帥には二人の娘
がいた。姉の彩音は高校三年生、妹の初音は高校一年生。揃って都
内の名門私立高校に通っているが、二人共渋谷を歩けば三メートル
おきに芸能スカウトに声をかけられるほどの美少女だった。
彩音は長い黒髪をさらりと下ろした和風少女、初音はセミロングの
髪をリボンでツインテールにした可愛い系少女なので当然といえば
当然だった。
……しかし。
そんなお嬢様姉妹はよく知る人間から影ではこう呼ばれていた。
「黒崎姉妹」ではなく「黒姉妹」と。

「お姉様、またあの遊びをしない?」
ノックも無く、姉の部屋に入るなり初音は楽しそうに言った。
学校から帰ったばかりなのか、お嬢様学校に相応しい気品あるブレ
ザー制服姿のままだった。
「後でいいでしょう。私は今宿題をしてるの」
学校にいる時からは考えられない程ぶっきらぼうな声で、彩音は答
える。妹に対する時はいつもこうだった。
「嫌。遊ばないと本当に<好きな事>しちゃうから」
「それだけは止めて。初音の<好きな事>なんて想像もつかないか
ら。お父様とかには迷惑をかけないで欲しいわね」
「ばれなければいいじゃない」
平然と言い切って、初音はこれも学校では見せないどこか歪んだ笑
みを浮かべた。
外見こそ可愛かったが、内面に隠し持つ悪魔のような裏の顔を思い
出し、彩音は大きく溜息をつく。
まったく、自分はどうしてこんな妹を持ってしまったのだろうか?
「分かったわ。飽きるまで遊びに付き合ってあげる。私だって憂さ
も溜まってるの。お嬢様するのも楽じゃないんだから」
「そうだよね。でも、付き合ってくれるお姉様大好き」
ぽてっ。
彩音が何かを言うよりも早く、初音はいきなり抱きついてきた。発
育のいい胸にあどけない顔をうずめてすりすりしてくる。
裏の性格は酷くても、表の性格は外見通り無邪気なのが初音という
少女だった。
無邪気過ぎるからかえって駄目なのかもしれないわね……。何も考
えないから。でも……。
妹の柔らかな髪をそっと撫でながら、姉は口の端に加虐的な笑みを
浮かべた。
久しぶりに思い切り<遊ぶ>のもいいわね。ついでに初音にもちょ
っとだけ教育的指導をしてしまうのも……悪くないわね。
姉の思惑と妹の願望が一致した瞬間、新たな<遊び>が幕を上げた
のだった。

「凄い……。今回の街はかなり大きいじゃない」
仮想空間上に作られた巨大な街並みに降り立った瞬間、初音は喜々
とした声を上げた。
ツインテールにした髪を揺らした少女は制服姿のままで約50倍近
くまで巨大化して大通りに立っていた。足元の道路は陥没し、一部
の車は踏み潰されていたが、もちろん気にしていない。
「また新たなパッケージが追加されたみたいね。追加していく事で
街を大きくできたり施設を増やせるから当然だけど」
彩音もまた、50倍前後まで巨大化して初音の近くに立っていた。
妹に合わせて制服姿だったので、異様な迫力があった。
「お父様の会社の技術は凄いわね。こんな仮想空間を作り出してし
まうんだから」
「うん。で、わたしたちはそれで遊べるからいいじゃない。ねえ、
そろそろ初めていい?」
「もちろん……」
<いいわよ>という彩音の言葉は発せられずに終わった。既に破壊
衝動が頂点に達していた初音はいきなり、両手を前にして大通りへ
とダイビングしたからだった。お洒落な制服に包まれた巨体の下で
渋滞していた車は全て潰されてしまい、ただのスクラップと化した
が、初音は笑いながら転がってしまう。今度はスカートから伸びる
足が通りに面した建物を直撃して、あっと言う間に崩壊に追い込む。
瓦礫の上げる埃が高く舞い上がったが、初音は喜悦の笑みを浮かべ
ていた。
「いきなりやってしまったわね……」
「いいじゃない。幾ら壊しても問題ないんだから」
そう言いながら、今度は腕を鞭のように振り下ろしてマンションを
中央部から両断する。その一撃で原形を失ったのを確かめると、止
めとばかりにさらに殴りつけてその場に倒してしまった。
「見て見て。こーんなに壊しちゃった」
瓦礫の上に足を伸ばして座り込んだまま、初音は姉に自分の破壊活
動を見せびらかした。既に制服は埃まみれになっていたが、いつも
の事なので気にしていなかった。
「お姉様も暴れてよ。本当は暴れたくて仕方ないんでしょう?」
「当然じゃない。こんな街……簡単に壊滅させてやるから!」
その言葉と同時に。ついに彩音も動き始めた。まずは道路上の車を
全てローファーで踏み潰して歩いてみせる。一部が爆発炎上しても
構ったりせず、それどころか建ち並ぶ建物には蹴りを食らわせて容
赦なく壊していく。
「あーあ。簡単に瓦礫になるわね……。負けられない。いつも澄ま
してていい格好してるお姉様なんかに」
姉に負けるのが余程悔しいのだろう。初音は立ち上がると、一段と
容赦なく破壊活動を続けた。住宅街をボディプレスで破壊し、引き
抜いた電線塔を武器にビルなどを薙ぎ倒し、立ち塞がる建物にはス
カートがまくれるのも構わないキックを食らわせる。それだけで、
大きな街は瓦礫だらけになっていく。
「やっぱり初音は悪い子ね。街をそんなにめちゃめちゃにしちゃう
んだから」
近くで暴れていた彩音が声をかけてくる。口ではそう言いながらも、
手では壊したばかりの高架線から電車を掴み上げていた。編成の中
程を持ち上げているので、まさに怪獣映画の1シーンだった。
「えー。お姉様だって酷いじゃない。それじゃまるで制服姿の巨大
怪獣じゃない。そんなお姉様なんて大嫌い」
「出たわね。初音の大嫌い。いっつも言ってるんだから」
「だって本当は嫌いだから。仕方ないじゃない!」
言い切った瞬間、初音の巨大なローファーによってまたビルがまと
めて壊された。通りにあった車も巻き込まれて潰れていったが、そ
れを蹴散らして駆け寄ってくる。
スカートがまくれるのも気にしないのは二人きりという気楽さもあ
るのだろうが、少なくともお嬢様風少女のする事ではなかった。
……しかし。
それは序の口に過ぎなかった。
「いつも格好つけてるお姉様なんか大嫌いだからこーしてやるんだ
から!」
破壊衝動と心の奥の黒い部分が結びついた瞬間、初音は彩音に飛び
かかっていったからだった……。

その攻撃を、彩音はまったく予想していなかった。思い切り正面か
ら受け止めてしまい、電車を壊したばかりの高架線の上にしりもち
をついてしまったからだった。お洒落な制服の下で鉄筋コンクリー
ト製の高架線が架線ごと破壊されていく。彩音が手にしていた電車
も地上に落下して、初音のローファーに踏み潰される。
「ち、ちょっと何するのよ!」
「決まってるじゃない! 大嫌いなお姉様をめちゃめちゃにしてや
るんだから! 今日こそ壊して上げる!」
姉を高架線の上に組み伏せながら、初音は近くにあったビルを片手
だけで引き抜くと思い切り叩きつけた。仮想空間上なので痛みは感
じないとはいえ、ビルは無数の破片と化して周囲に飛び散る。
それでもヤンデレな妹の攻撃は始まったばかりだった。すぐに立ち
上がると呆然として動けずにいる彩音の両足を掴むとそのまま思い
切り転がしたからだった。その先にあったのは住宅街だったが、身
長80メートル近い巨大少女の全身が襲いかかってきてはひとたま
りも無かった。一瞬の内に全ての建物が瓦礫と化していき、切れた
電線が火花を散らす。転がる度に制服から瓦礫の一部がこぼれるの
が壮絶だったが、初音は少しずつ自分の心が満たされていくのを感
じていた。
これよこれ! 大嫌い……ううん、大好きなお姉様をめちゃめちゃ
にしながら街もめちゃめちゃにしてしまうの。これがあるから止め
られない……。
住宅街を壊滅させたところで、初音は手を止めた。車を潰し、頭を
振りながら大通りに体を起こした姉を見下ろして得意そうな表情を
浮かべていたが、やがて近くに面白いものを見つけると建物を壊し
ながら駆け寄る。それは大型のガスタンク基地だった。
「お姉様、ボール遊びしない?」
「ボール遊び? まさか……」
「もちろんこれで遊んでしまうの! 別名爆発遊び! えいっ!」
彩音が言葉の意味を飲み込んだ時には遅かった。ガスタンク基地を
足を踏み入れた初音は手近なタンクを地面から引き抜くと、いきな
り姉目掛けて投げつけたからだった。びっくりした彩音はとっさに
手で振り払ってしまったのでタンクは地面に叩きつけられて……大
爆発した。
派手な爆風によって周囲は簡単に火の海と化し、大通りの車も巻き
込まれて爆発と炎上を繰り返したが、二人の巨大制服少女にしてみ
ればちょっと風が吹いた程度にしか感じなかった。
「ち、ちょっと何を……あっ!」
「油断大敵!」
タンクを手にした初音が近づいている事に気づいた時には遅かった。
薄緑色のガスタンクをふっくらとした胸の谷間に押しつけられたま
ま半壊したビルの上に座り込んでしまったからだった。スカートの
下で建物が派手に崩壊していったが、初音は悪魔のように笑いなが
らガスタンクを姉に叩きつける。
今度は二人の巨大少女を中心にして大爆発が巻き起こり、一度目の
爆発で半壊した建物が止めを刺されたが、初音はスカートにも構わ
ずキックを食らわせる。その一撃で、炎を吹き上げる瓦礫の上に、
埃だらけの制服姿のまま彩音は転がってしまう。
「お姉様……大好き! だから苛めてしまうの!」
矛盾した事を言っているという自覚は存在しなかった。相反する感
情に突き動かされながらも、初音は彩音をとことんまで苛めた。
初音が電車をめちゃめちゃにした事を言葉でも責めたてながら電車
を叩きつける。
無傷のビルを引き抜いて叩きつけ、その上から踏みつける。
挙げ句の果てには危険物だらけの化学プラント目掛けて投げ飛ばし
て、またもや大爆発を発生させる。
全て「大嫌いで大好きな姉に捧げる」苛めだった。
「さすがにこれでお姉様も懲りたはずね。もう立ち直れないんじゃ
ないかしら?」
足元で工場の建物を踏み潰し、ツインテールにした髪をふわりと揺
らしながら、初音は勝ち誇ったように宣言した。無限の力を全て出
し切って、かつて無い程の満足感が心を支配していたのだが……。
「……さてと、そろそろ私の番ね。ここまでやっといて逃げるとい
う選択肢は無いわよ」
化学プラントを壊滅させながら、ゆっくりと彩音が立ち上がったの
はその時だった。その口許に歪んだ笑みが浮かんでいるのに気づく
と、初音は全身が震えた。
妹がヤンデレなら、姉はSだった。それも、Mになりきってその屈
辱を全てSとしての力に変えられる程の……。
「あ、あのお姉様……ちょっと待って……」
「倍返し程度では済まないわよ。二乗、三乗にして返してあげるか
ら……。ふふ、覚悟して♪」
「ち、ちょっと調子に乗っただけなのに……」
瓦礫を蹴散らしながら逃げようとしたが遅かった。制服に包まれた
腕を掴まれると、いきなり貨物列車の留置されているヤード目掛け
て投げ飛ばされてしまったからだった。そこにはコンテナ車や石油
のタンク車などが大量にあったのだが、身長80メートル弱の巨体
を受け止めて一瞬の内に全て壊滅してしまった。さらに一部の車両
が爆発して炎を吹き上げ始めたが、まったく熱くなかった。
しかし、正直それどころでは無かった。喜悦に満ちた笑みを浮かべ
た彩音が破壊された車両を踏み潰しながら近づいてくると乱暴に起
こしたからだった。
「今日はフルコースでいいわね。その覚悟があるから私に攻撃した
んでしょう?」
「ち、違うわ……。ちょっと調子に乗っただけで……」
「言い訳はそれだけ? もっと聞きたいわね。絶望という名の言い
訳を!」
「ま、待って……」
「でも処刑するのが先ね。面白い場所があるから」
姉より優れた妹はやはり存在しなかった。楯突く意思を失った初音
は、彩音に腕を引っ張られて……<処刑場>に引っ張られていった
からだった。そこは最近出来たばかりの建物が建ち並ぶ瀟洒な地区
だった。
「まずは磔(はりつけ)にしてあげる! えいっ!」
処刑という名の破壊活動は、制服姿の初音が高さ100メートルは
ある大型ビルに背中から叩きつけられて始まった。正面のガラスが
全て砕け散り、陽光を反射しながら地面に落ちていったが、彩音は
足元の小さな建物や車を全て壊しながら近づいてくると、二度三度
と押しつけて……最後にビルごと押し倒してしまった。
「これじゃ磔にならないじゃない。まったく、弱いビルなんだから」
「力任せに叩きつけたら倒れるに決まってる……」
「うるさいわね。少しは黙ってて。貴方はあえいでいればいいの」
さらりと綺麗な黒髪を揺らしながら言い切ると、彩音は隣のビルを
土台ごとを引き抜いて叩きつけた。すっかり汚れた制服がまた瓦礫
だらけになったが、そのままローファーで踏みつけてしまう。
「さっきはよくもやってくれたわね。どう? 同じ事をされる気分
は……。そろそろ気持ちよくなってきたんじゃないの?」
「そ、そんな事ない……」
「だったらまだお仕置きが足りないわね。もう一度磔の刑ね」
その後、初音は姉の手によって人形のように好きなだけ苛められた。
瀟洒な地区に建ち並ぶビルを全て壊しながら叩きつけられたり、足
を掴まれて引きずり回されたりしたからである。
気がつくと、地区全体が壊滅していたが、ほとんどは初音の巨体に
よる破壊劇だった。
「そろそろ楽しい遊び場に行かない?」
「え? まだやるの……」
「馬鹿。まだ始まったばかりじゃない。フルコースなんだから!」
壊滅したビルを足場に制服の埃を払っていた初音だったが、彩音の
言葉に石のように固まってしまった。それを見て笑みを浮かべた姉
は、無抵抗な妹を引っ張って新たな遊び場に引っ張って行った。
「さあ、今度はここで遊ぶわよ!」
「え、ここって遊園地……。壊したくない……」
「今更何を言ってるの? ほら壊すわよ!」
最初に壊されたのは、奇麗に飾られた正面ゲートだった。夢の国へ
の入り口は初音のソックスとローファーに包まれた足によってあっ
と言う間に瓦礫になったからだった。
「ち、ちょっとここは止めない? こんなに楽しそうなのに」
「楽しそうだから壊してしまうの! ほらっ! 壊して!」
抵抗する妹に苛立ったかのように、彩音が初音を突き飛ばしたのは
その時だった。必死になってバランスを取ろうとした初音だったが、
為す術無く……観覧車に抱きつくようにして倒れてしまった。それ
だけで観覧車はゴンドラが殆ど落下して大きく傾いてしまう。
「壊しちゃった……」
「当たり前じゃない! ほら、もっと壊す壊す!」
初音が立ち上がる余裕も無かった。ツインテールにした髪や制服の
スカートを大きく翻しながら、またもや突き飛ばされてしまったか
らだった。その先にあったのはジェットコースターのレールだった
が、全て巨体で潰してしまう。
「あ、いいものを見つけた♪」
レールを壊しながら体を起こした妹を見た瞬間、彩音のSっ気はつ
いに頂点に達した。足元の施設などを壊しながら近づくと、壊れた
レールを掴み上げて……それで初音の制服に包まれた巨体を縛りつ
けてしまったからだった。
「こういう遊びは巨大化してないとできないわね。ジェットコース
ターのレールで縛りつけるなんて」
「酷い……」
「うるさい。貴方は大人しくなぶられてればいいの!」
そう言いながら、彩音は鉄製のレールを巻きつけられた初音に壊れ
た観覧車を叩きつける。ゴンドラが周囲に飛び散ったが、心が壊れ
た姉は満足に笑う。
……。
こうして。不用意に姉を苛めた妹は街が壊滅するまで仕返しをされ
た。それでも。最後に本心からこう言ったという。
「お姉様。大嫌いで……大好き!」