大型の駅を中心とした中心街を完全に瓦礫の山に変えても、二人の巨大少女……正確には、亜梨子の破壊劇
は終わらなかった。駅の周囲を破壊すると、今度は工場などが建ち並ぶ地区へと襲いかかろうとしたからで
ある。
「……にしても、きりがないわね。こんなに建物があると」
平然と恐ろしいことを言いながら、両手を腰に当てた亜梨子は工場地帯を見下ろしていた。足元では通りの
車を全て踏み潰していたが、もちろん気にしていない。
「完全に破壊衝動の固まりになってしまったわね。ここまで凄くなるなんて思わなかった」
ブレザー制服についた埃を払いながら、巨大兎少女の真夜が横に並んだ。既に用意した街は半分が壊滅して
、一部は炎上している有り様だったが、ここまで気持ちのいい破壊劇は久しぶりだった。
「ところで、ちょっと提案があるんだけど聞く気はある?」
「今すぐわたしを元の世界に返すなんて言ったら怒るわよ。また戦ってこの街全部壊してやるから」
「わかってる。君にとってみればいい話だと思うよ。この街を壊し易くする為にもっと巨大化するんだ」
「巨大化? もうこんなに大きくなっているのに」
きょとんとして、亜梨子は自分の姿を確かめた。身長約50メートル近く、体重は1000トンを越えてい
たが、これより巨大化するということは……。
「どのぐらいのサイズがいい?」
「そうね。この街をもっと簡単に壊せるぐらいがいいわ」
「じゃ、このサイズね。服装を変えるならちょっと念じてみて」
「そうね。……次はやっぱりこれね」
一瞬の間合いを置いて、亜梨子の身体は光に包まれたかと思うと一気に巨大化を始めた。足場を置く道路が
さらに陥没していき、巨大な穴を形作る。真夜は大きくなる亜梨子を満足そうに見つめ……笑った。一段の
大破壊を期待して。
亜梨子の周囲から光が消えたのは、最初の身長から優に3倍は大きくなった後のことだった。
「どう? 気分は?」
まるで柱のようにそそり立つ相手を見上げながら、真夜は挑発するように訊いた。
「……凄い。高層ビルに上った時みたい。でも、足は地面についているんだから不思議ね」
そこにいたのは、身長160メートル、体重5万トンにまで巨大化したセーラー服少女だった。胸元は赤い
リボンで飾り、返しのある白い身頃、濃紺色のプリッツスカート、白いソックスにローファーというごくオ
ーソドックスな制服に身を包み、長い髪は下ろして白いヘアバンドで留めていた。
背景には一部が破壊された都市が広がり、清楚な姿とのギャップを強調していた。
「また制服に戻って暴れるんだ。いいセンスしてるね」
「やっぱりこれが一番じゃない。ところで、あなたはどうするの? このままだと勝負ならないじゃない」
「私も巨大化するよ。簡単だからね」
そう言うなり、少し亜梨子から離れて真夜も巨大化した。服装は変わらないまま、身長160メートルにま
で大きくなって亜梨子と並ぶ。
「二人並ぶと迫力あるわね。高層ビルが2つ並んでいるようなものだから。しかも、その高層ビルは怪獣み
たいに大暴れするのでした、っと」
そう言うなり、亜梨子はいきなり大暴れを再開した。びっくりする真夜を横目に歩き始めたからである。足
元の車がそれこそ芥子粒ように潰れていき、道路には20メートルを越える大きさの足跡……正確には深い
穴が残る。
「凄い。歩いただけで壊滅してしまいそう」
「今までみたいに暴れたらそれこそ30分ぐらいで壊滅するわよ。その時はちょっと街を広げてもいいけど
?」
「その時にお願いするわ」
生返事気味に答えながらも、亜梨子は100倍サイズでの大暴れを楽しんでいた。周囲を歩いただけで壊滅
させると、いきなりその場に両膝をついて座り込む。体重がかかる部分は亀裂が発生したかと思うと全て陥
没して、そこに周囲の建物などが壊れながら落ち込んでいく。
それでも亜梨子は、無邪気に笑いながら四つんばいになって進み始めてしまった。その先にあったのは工場
だったが、巨大化した女子高生に襲われるとたまったものではなかった。手や膝の下で簡単に建物は破壊さ
れていき、その後には陥没した地面と瓦礫しか残らなかったからである。
「こういう壊し方も面白いわね。自分が圧倒的な力を持つんだから……」
工場の中央にちょこんと座り込んだまま、亜梨子は新しい破壊劇に酔っていた。手にはかなり大きな煙突が
握られていたが、身長50メートル当時でも大きく感じたそれも、ただのおもちゃにしかならなかった。
「ここまで大きくなると巨大な建造物も簡単に壊せるから試してみる? 港に色々用意したから」
「あ、本当。吊り橋とかまであるじゃない。みーんな壊してしまうのもいいわね!」
軽い動作で、亜梨子は立ち上がった。プリーツスカートからは瓦礫がぼろぼろと落ちてきたが、軽く払うと
手にしていた煙突を足元に叩きつける。それだけで建物が壊れたものを見ると、今度はローファーに包まれ
た足で踏み潰してしまう。25メートルを越える巨大な靴によって建物は一瞬の内に潰れて大穴の中へと落
ちていく。圧倒的な破壊力だった。
「こんな工場、壊滅させてやるんだから!」
それでも、亜梨子は手を抜いたりしなかった。高らかに宣言すると、めちゃめちゃに歩き始めてしまったか
らである。足元で建物が次々に破壊されていき、プラントは大爆発したりしたが、構ったりせずに蹴飛ばし
て無傷な地区に瓦礫を落下させる。
目についた比較的大きな建物は両手で簡単に持ち上げると、思い切り力を込めて地面に叩きつけて壊す。
さらに瓦礫を片手で持ち上げると、目についたマンションに叩きつけてまとめて崩壊させる。
セーラー服に身を包んだ巨大少女によって、今までの何倍もの速さで工場地帯は瓦礫と化していく。
「これでウォーミングアップは終わり。どう? わたしの破壊力は?」
亜梨子が手を休めたのは、広大な工場地帯が全て壊滅した後のことだった。周囲は完全に瓦礫だらけになり
、足跡が地面を容赦なく抉っていたが、当の本人は満足そうに笑ってポーズを決めている。
「最高だね。というわけで、そろそろ港を襲ってみる? 吊り橋とか船とか、みんな壊していいから」
「任せて。最高で最悪の破壊劇を見せて上げるから!」
あっさりと言い切って、身長160メートルになった亜梨子は長い髪を揺らして歩き始めた。まだまだ暴れ
足りなかった。

亜梨子と真夜、二人の巨大化少女が足を止めたのは、港を一望出来る場所まで来た時だった。
「こんなに大きくなってると簡単に壊せそうね。やっちゃっていい?」
媚びさえ売るような表情で、亜梨子はきいた。足元ではお約束のようにローファーで車などをまとめて踏み
潰し、歩いた後には瓦礫と巨大な足跡しか残っていなかった。
「もちろん。海に入って吊り橋を狙うのもいいんじゃないの? そっちは任せるから」
「海に入っちゃうのもありなのね。この制服姿のままで……」
「水着に着替えてもいいのよ。念じればいいだけなんだから」
「まさか。こんなに面白い機会滅多にないじゃない。さっそくいかせてもらうわよ!」
亜梨子の言葉に含みを感じて真夜が首をかしげている内に、身長160メートルのセーラー服少女はまった
く躊躇わずに建物を壊しながら走り出した。高圧電線塔が巻き込まれて倒れ、火花が散ったが、構ったりせ
ずに建物を蹴散らして……そのまま海に入って行った。
「着替えないんだ……」
「もちろん。こーいう可愛い制服のまま水遊びするのって楽しそうじゃない」
「もしかして、別の属性(フェチ)もあったとか?」
「どんな属性かしら? 服を着たまま水遊びを楽しむ属性とか?」
あっさりと答えを言いながら、亜梨子は海の中へと入っていく。ローファーとソックスがびしょ濡れなって
も構わず水をかき分け、そのまま海を跨ぐようにして架けられた吊り橋の方へと向かう。非常に大きなそれ
も、身長160メートルの少女を目の前にすると模型以下にしか見えなかった。
「こんな無駄な橋、壊して上げるんだから! えいっ!」
掛け声と同時に、亜梨子は制服のスカートを豪快に翻して吊り橋の片方の主柱を蹴り上げた。水しぶきが上
がり、制服をびしょ濡れにしたが、その一撃だけで吊り橋の主柱は傾いて……何と海中に倒れてしまった。
支えを失った橋は二つに折れてしまい、無残な姿となったが、亜梨子はすぐに海中に手を伸ばして倒したば
かりの主柱を両手で持ち上げる。
「これは武器代わりになりそうね」
制服の上着やスカートから水を滴らせながらも、亜梨子はなおも暴れ続けた。両手で持った主柱を、壊した
ばかりの吊り橋に叩きつけたからだった。たったそれだけで大きな橋も原形すらも失い、もう片方の主柱も
倒れて再び盛大な水しぶきが上がる。
「あーあ。1分もたたずに壊すなんて思わなかったな」
破壊劇を見ていた真夜は苦笑いしていた。制服姿のよく似合う女の子が吊り橋を簡単に壊す光景はやはり興
奮するものだったが……。
「にしても、制服姿でびしょ濡れになる女の子って言うのもいいんだね。初めて知ったよ」
「そう? わたしは好きだからこういうのよくやるの。お風呂に服を着たまま入ったりするんだから」
「慣れてるんだな」
「だからこーいう事をしても平気だったりして」
そう言いながら、亜梨子は武器代わりの主柱を投げ捨てると、そのまま海の中に座り込んでしまった。胸元
まで水につかってしまったが、当の本人は無邪気に笑ってばた足をしている。それだけで大波が発生してま
だ無傷だった港に損害を与え始めたが、それを見逃す亜梨子ではなかった。
「巨大化して水遊びするのも楽しそうね。名付けて大津波遊び!」
亜梨子が立ち上がった。セーラー服に包まれた全身から水が流れ落ちてきたが、開き直ったかのように今度
は勢いをつけて座り込む。想像を絶する大質量の少女が弾き飛ばした海水は一瞬の内に巨大波となり……港
を襲った。
「凄い……! みんなめちゃめちゃ……」
岸壁の船は波に乗った瞬間、質量を持った凶器と化して港に建ち並ぶ倉庫などを破壊した。追い打ちをかけ
るように数十メートルの津波が襲って辺りをただの瓦礫の山に変えていく。それでも水の壁は勢いを失わず
、真夜の足元すらも洗い流していく。
「こういう壊し方もあるんだ。でも、私は普通にやらせてもらうよ」
びしょ濡れになった亜梨子が満足そうに水遊びしているのを見ながら、巨大な兎少女も破壊活動を再開した
。津波で壊滅した地区を簡単に蹴散らして歩くと、彼女もまた海に入ったからである。すぐに目をつけたの
は……奇跡的に大波に耐えたタンカーだった。
「こんなのもすぐに持ち上がるのよね。こうやって……」
あっさりと言いながら、巨大化したブレザー少女はタンカーを両手で持ち上げる。それだけならまだしも…
…目の前に広がっていた石油プラント目掛けて叩きつけてしまった。
次の瞬間、今までの破壊劇の中でも最大級の爆発が辺りを襲った。周囲は爆風で吹き飛んで炎上し、港はあ
っと言う間に火の海と化す。それでも真夜はまったく無傷だった。それどころか、自らの破壊活動を満足そ
うに見つめている始末だった。
「ひっどーい。火は消さないと駄目ね」
それを見て亜梨子も調子に乗った。今度は腰をかがめると、盛大に水を掬いあげて浴びせ始めたからだった
。それだけで火の勢いは多少弱まったが、真夜も負けていなかった。
「炎を司る破壊の女神が負けるわけにはいかないのよ」と嘯きながら上陸すると、残っていた石油プラント
を蹂躙し始めたからだった。タンクも蹴りの一撃で破壊して、また新たな爆発を演出する。
「何するのよ、人がせっかく消そうとしてるのに」
一方、亜梨子もまた、手を緩めなかった。何と水を弾きながら走ると、港のすぐ近くで飛び込むようにして
座り込んでしまったからだった。今までの二倍の規模で津波が発生し、炎が海水に飲み込まれていく。それ
どころか、今まで無傷だった地区にも波は襲い、一撃で壊滅させる。
「簡単に壊滅しちゃったわね。港も」
「まったく、水と炎の共演だったな。もっとゆっくり壊すつもりだったのに」
「いいじゃない。さ、次壊すわよ」
「もう無事な場所なんてあまり残ってないけどね」
「いいじゃない。最後まで暴れるわよ」
水を滴らせながら、亜梨子が立ち上がった。自分が起こした津波で壊滅させた港を足場にして堂々と立って
みせる。
巨大化していても、制服をびしょ濡れにした少女の姿は不思議と魅力的なのだった。

破壊衝動の固まりと化した二人の巨大少女……亜梨子と真夜は壊滅した港を後にしてまだ壊されていない地
区を瓦礫にしながら歩き始めた。揃って身長約160メートルになっているので、二人の歩いた後には約2
0数メートルの足跡と瓦礫しか残らなかったが、二人とも全く気にしていなかった。
「あーあ。そろそろこの大破壊も終わりね」
心から残念そうに亜梨子が言ったのは、足元にあった高速道路の高架線をローファーで簡単に踏み潰してし
まった後の事だった。
「とっても楽しかったのに。あそこを壊したら終わりでしょう?」
「まあね。まさかここまで派手にやっちゃうなんて思わなかったから」
作り物なのか本物なのか分からない兎耳を揺らして、真夜が答える。ブレサー制服を着込んでいるので、「
不思議の国のアリス」に出てくる兎ではなく、とある有名ゲームのキャラのようにも見えた。
「でも、最後は壊しがいがあるじゃない。大型ビルが林立してるんだから」
「そうね。かなり大きいし、また戦ってしまうのもいいわね」
「歓迎するよ」
真夜の返事を聞くと、亜梨子は笑いながら高速道路を全て壊してしまった。足元でどれだけの車が犠牲にな
ったのか、想像もつかなかった。
「それにしても、大きな街だったのに随分めちゃめちゃになったわね」
「人ごとみたいに言うんだね」
「だって、わたしたちはちょっと遊んだだけじゃない」
「それはそうだけど……」
口ごもりながら答えて、真夜は既に破壊された地区を改めて振り返った。
最初は街のやや外れに降り立って壮絶な追いかけっこを演じ、住宅街などを全て壊滅させた。
続いて、遊園地を中心に派手にキャットファイトを演じて、辺り一帯を完全に瓦礫の山に変えてしまった。
その後、なおも追いかけっこを続けたものの、今度は街の中心部と駅を中心にして壮絶な戦いを演じてつい
に街の半分以上を破壊した。その後は約100倍に巨大化して、港湾地区を水と炎で壊滅させた。
そして、ついに……。
「ほら、見て。こんな大きな建物なのに簡単に壊しちゃった」
気がつくと、身長約160メートルのセーラー服少女は最後まで残された高層ビル街に襲いかかっていた。
足元では駐車場を簡単に壊滅させていたが、酷かったのはビル自体の被害だった。高さ約200メートルの
ビルが中央から両断されていたからである。
「こんなに簡単に壊せるなんて思わなかった。……ほら、こんなのだって簡単に持ち上がるんだから」
呆れる真夜に構わず、亜梨子は地上に落下させたビルの上半分を簡単に持ち上げてしまった。それを目につ
いた別のビルに思い切り叩きつける。その一撃だけで攻撃を受けたビルは崩壊して、凄まじい埃を舞い上げ
たが、亜梨子は満足そうに笑っていた。
「私も負けないから。こんな地区簡単に壊滅させるよ」
それを見て、真夜も本来の破壊衝動に火がついた。亜梨子の作った瓦礫を踏みつけながら手近な建物に拳を
振り下ろして、簡単に半壊させてしまったからである。それをスカートを翻しながら蹴飛ばして止めを刺す
と、新たな瓦礫をローファーで踏みつけてみせる。
「ひっどーい。そんなに簡単に壊すなんて」
「人の事は言えないじゃない。……って、どこに座ってるの?」
「もちろん、壊したビルをこうやって潰してるの」
亜梨子は壊したビルの下半分に座り込んで足を伸ばしていた。ソックスとローファーに包まれた足は壊滅し
た大通りに投げ出され、車などをめちゃめちゃにしていた。
「さあ、また壊すわよ。こーするとどうなるかしら? えいっ!」
真夜があっと思った時には遅かった。亜梨子は制服のスカートが豪快に翻るのも構わずにジャンプすると、
そのまま瓦礫の上に着地したからである。
たったそれだけで、着地した地面は大きく陥没し、周囲の建物がまとめてその中へと崩れ落ちていく。着地
した時の衝撃は人類が経験した事が無い程の地震波となって、既に瓦礫と化した街をほぼ完全に壊滅に追い
込む。また新たな爆発があちこちで発生して、崩壊した建物はあっと言う間に炎に包まれる。そして、震源
に近いビル街は……その一撃だけでビルがまとめて倒れて、まるで積まれた積み木が崩れた後のような有り
様になってしまった。
「ちょっと、急にやらないでよ」
びっくりした挙げ句、突然地面が揺れたのでその場にしりもちをついてしまった真夜が抗議の声を上げる。
スカートがまくれて縞模様まで丸見えになっていたが、気にしている風ではない。
「いいじゃない。でも絵になるわね。瓦礫に寄りかかっている制服少女って。しかもパンツが丸見え」
「これは見せパンだからいいの。君だってさっき思い切り見えてたじゃない」
「そんな事言うとお仕置きするわよ」
真夜が立ち上がるよりも早く、亜梨子は瓦礫を踏みしめながら近寄ってくると、少女の腕を掴んで立ち上が
らせてしまった。そのまま、笑いながらかつてビル街の中心部だった部分に投げ飛ばす。不意打ちだったこ
ともあって、真夜は為す術無く転がってさらに瓦礫を増やしてしまった。新たな地震波が起こり、周囲のビ
ルの崩壊を促す。
「やっぱりわたしたちが暴れるだけで地震が起こるわね。地形も変わりそう」
「そりゃあ体重5万トンになっていればね。あーあ。この街も終わりだな」
「本当。地震一発で壊滅するなんて」
「だからやり過ぎだって。こうなったら最後の手段を使うしか無いか」
面倒臭そうに言いながら、真夜が立ち上がった。きょとんとする亜梨子に構わず、軽く腕を振る。たったそ
れだけで、壊滅していたはずの建物は全て元通りになってしまった。
「嘘……。街が全部元に戻ってる」
「私が作った街だから当然じゃない。さてと……最後の勝負してみる?」
「いいわよ。せっかく壊したのに元に戻すんだから。逃げても追いかけ回して引きずり倒してやるんだか

「その意気だよ。それがあるからわざと元に戻したんだ。不思議の国のアリスは兎と最後の勝負をする事で
、元の世界に戻ろうとしたのでした、ってわけだ」
「そうね。負けたりしないから」
せっかく復元したされたのにも関わらず、亜梨子は軽く足を動かして足元の駐車場と小さな建物を壊滅させ
た。身長160メートルになった今なら、一回戦うだけで街を壊滅させることが出来るだろう。
「だったら、わたしからいくわよ!」
亜梨子が高らかに宣言すると同時に、ついに最後の戦いと大破壊は始まったのだった。

最初に仕掛けたのは……真夜の方だった。兎耳の巨大ブレザー少女は足元でまとめて建物を壊しながら、亜
梨子の腕を掴んだからである。
「え……?」
「油断してると負けてしまうよ。私だって本気だから」
一瞬だけ耳元で囁くと、笑いながら巨大なセーラー服少女を投げ飛ばすようにして転がす。制服に包まれた
巨体が、高さ100メートル近いビルが建ち並ぶ再開発地区をあっという間に瓦礫に変えていく。車はまと
めて潰されて炎上し、壊されたビルは瓦礫を撒き散らしながら崩壊していく。
それでも、亜梨子は大型タワーマンションを派手に壊しながら体を起こした。真夜が近づいてくるのを見る
と、いきなり近くにあったビルの一部を投げつけて怯ませる。
「負けたりしないんだから!」
熱くなる心に背中を押されながらつぶやくと、全身から瓦礫を落としながら壊滅した公園に仁王立ちになる
。上着にまとわりつく車や小さな破片を手だけで払い落とすと、高速道路を派手に蹴散らしながら真夜に正
面から襲いかかる。そのまま掴んで投げ飛ばすつもりだったが……。
「だからそんな攻撃は通じないって」
何度も聞いた真夜の言葉が耳に届いた瞬間、亜梨子の目の前から真夜の姿が消えた。攻撃は空振りに終わり
、勢い余って亜梨子はまだ壊されていなかった住宅街にヘッドスライディングしてしまう。その一撃で数百
もの住宅が破壊され、さらに転がった亜梨子の体の下で商業地区までも簡単に壊滅する。
「やっぱりここまで巨大化してると壊滅するのも早いわね」
簡単に壊滅していく都市を眺めながら、真夜は満足していた。ついでとばかりに足元の破壊された高速道路
の高架部分を両手で持ち上げると、体を起こしたばかりの亜梨子に叩きつける。まったく避けられず、セー
ラー服少女は瓦礫の上に転がってしまった。
「意外と弱いのね。もっと強いと思ったのに……」
「馬鹿な事を言わないで。今から本気出すから」
「そういう発言ってフラグっぽいよね」
「うるさい!」
遊び半分で再開発地区を壊滅させた真夜に、亜梨子が逆襲したのはその時だった。下ろしただけの髪を振り
乱し、ローファーでは容赦なく無傷の建物や車を蹴散らしながら、真夜にキックを食らわせようとする。し
かし、その一撃も簡単に受けられてしまう。
「こーんな事をしたりして。えいっ!」
足を掴まれて慌てた亜梨子だったが、真夜がそのまま押し込んできたのでバランスを崩して倒れてしまった
。またもや住宅が壊されたが、構わずに真夜の手をほどくと、半ば転がりながら難を逃れる。その先にあっ
たのは……鉄道の高架線と電車だった。
「見つけた……わたしの武器!」
マンションなどを壊しながら膝をつくと、亜梨子は一気に電車を掴み上げた。身長160メートルの少女に
してみればおもちゃ以下の大きさだったが、すかさず襲いかかってきた真夜には効果的な武器だった。
いきなり、編成がちぎれるのも構わずに叩きつける。それで怯んだのを見ると足でビルなどを破壊しながら
体当たりを食らわせる。体勢が崩れていた巨大兎少女にそれを避ける事は出来ず、轟音と共にその場に転が
って地形すらも大きく変えてしまった。
「凄い地震が何度も起きてるわね。周囲もめちゃめちゃ……」
電車を投げ捨てて、亜梨子は悪魔のような笑みを浮かべた。二人が暴れた地域はあちこちに深さ数十メート
ルの穴や巨大な溝が出来ており、その中に落ちていく建物も無数にあった。大型のビルなどは半分近くが原
形を失っており、再生された街は既にかなりのダメージを受けていた。
「でも、まだまだ暴れるの♪ こーやって!」
頭を振りながら体を起こした真夜の腕を、亜梨子が掴んだのはその時だった。相手の抵抗を無視して、港湾
地区へと投げ飛ばす。さっき大津波と大爆発で壊滅した地区は、ブレザー制服姿のまま巨大化した少女の全
身によって破壊されていく。
「今度は私が火遊びしてしまうのもいいわね。大爆発は怪獣映画の醍醐味だから!」
「……ようやく反撃に出たわね」
「ずっと我慢してたの。幾らでもいじめてあげるから!」
平然と言い返すと、亜梨子は石油タンクの建ち並ぶ地区に足を踏み入れた。わざとタンクを壊さずに足場を
作ると、挑発するように真夜を見つめ返す。その意図を察したのだろう。もう一人の巨大少女は全てを蹂躙
しながら足を踏み入れてきて……。石油タンクは再び一気に大爆発した。
中心部にいた亜梨子はあまりの火力に少しだけ驚いたが、真夜の攻撃を簡単に受け止めて、まだ壊していな
かった石油プラントの方へと投げ飛ばし、そこを火の海に変えてしまう。
「炎の中の最終決戦って盛り上がるわね」
炎上するプラントを蹴散らしながら、亜梨子は満足していた。
「ここまで大きくなっていると簡単に破壊されるからちょっと拍子抜けだけどね」
「いいじゃない。……えいっ!」
激しく燃え上がる港湾地区を舞台に、二人の巨大少女は怪獣となって戦いを続けた。
前回は亜梨子の手によって壊された吊り橋が、今度は真夜の猛攻によって簡単に破壊された。
港はタンカーを持ち上げた亜梨子が何度も叩きつけただけで海に沈んでいった。
そして、海に面した建物は二人の巨大少女たちが遊び半分追いかけっこをしただけで全て壊滅した。
それでも、亜梨子と真夜は満足していなかった。
「最後の最後は中心部大破壊。これで終わりだから」
「うん。手なんか抜いたりしないから」
わずか5分で解決した港湾地区を足場に言葉を交わすと、また新たな大破壊を求めて歩き出す。
アリスと兎の壮絶な追いかけっこは終わりに近づきつつあるのだった。

ふと気がつくと、一度再生されたはずの街はまたもや半分近くが壊滅していた。100倍サイズまで巨大化
した二人の制服少女たちがそれこそはしゃぐようにして破壊してしまったからだった。
「えーい! 壊れちゃえ! こんな建物!」
笑いながら、亜梨子が襲いかかったのは中心街の近くにあったかなり大型のマンションだった。大型といっ
ても巨大化した少女の半分以下の高さしか無かった事もあり、手をかけただけで屋上から崩壊していく。
「あーあ。脆過ぎるじゃない。こーしちゃうんだから!」
余程つまらなかったのだろう。亜梨子はスカートにも構わずローファーに包まれた足を振り上げると、その
まま壊した部分に下ろしてしまった。たったそれだけで、建物は瓦礫と化してしまった。
「どう? そっちは順調に壊してる?」
平然と言いながら真夜が声をかけてくる。さっき港湾地区を壊滅させたばかりだというのに、既にその周囲
の工業地帯をめちゃめちゃにしている始末だった。
「もちろん。楽しくてたまらないんだから」
平然と言い切って、亜梨子は壊したばかりの建物を足場にしてVサインしてみせた。制服姿のままで身長1
60メートルの破壊の女神になっていたが、なぜか違和感は無かった。
「でも、こうやって二人で壊すのもつまないし、もう一度追いかけっこする?」
「そうね。今度こそ捕まえてやるんだから!」
いきなり、亜梨子が走り出した。足元では建物などを全て蹴散らし巨大な足跡を残しながら真夜に向かって
突進する。しかし、巨大な兎少女はそれを予想していたようだった。
「だから正面からじゃ勝てるわけないじゃない」
亜梨子があっと思う間もなかった。真夜は平然と巨大化した制服少女を受け止めると、そのまままったく壊
されていなかった住宅街目掛けて突き飛ばしたからだった。バランスを取ろうとしたものの、住宅を数十軒
まとめて壊滅させても止まらず、ついには大型スーパーの上に座り込んでそれだけで建物を壊してしまった
。すらりとした足は駐車場に投げ出されて車をまとめて破壊する。
それでも亜梨子はすぐに立ち上がった。真夜が歩いてくるのを見ると、壊したばかりの建物を掴み上げて投
げつける。それを何度も繰り返したので、少女の周囲からは瓦礫が無くなるほどだったが、真夜は制服を汚
しながらそれを受け止めると、亜梨子の両肩を掴む。
「ちょ……何をするのよ!」
「分からず屋の巨大少女にお仕置き。ついでに中心街もまとめて壊すよ」
「ふふっ。そうは問屋が卸さないわよ」
「え?」
真夜が慌てた時には遅かった。亜梨子が演技しているだけだと気づいた時には立場が逆転していたからだっ
た。
いきなり、まだまったく壊されていない車両ヤード目掛けて突き飛ばされる。足元で電車を壊しながら転ん
でしまったので、今度は制服に包まれた全身でヤード自体を壊滅させてしまったが、近づいてきた亜梨子は
すかさずスカートから伸びる足を掴む。
「まさか、またやるの?」
「もちろん! 縞パンの可愛い兎さん!」
見せパンとはいえ丸見えになっている事に真夜が慌てるのと同時に、亜梨子は少女の巨体を転がして街を壊
し始めてしまった。それこそローラーのように次々と建物が破壊され、整地されていく。
「まさかここまでやるなんて思わなかった……」
ようやく亜梨子が足を離したのは、一部が壊滅した中心街まで来た時だった。無造作にあぐらをかいて、制
服の埃や瓦礫を振り払う。
「いいじゃない。でも、残っているのはここだけね」
「最後だから盛大にやろうか?」
「何をするの?」
「さっき君もやったけど……。これっ!」
素早い動作で、真夜が立ち上がった。壊した建物を足場にしていたが、笑いながらジャンプして……そのま
ま着地した。
「きゃっ!」
その衝撃は、亜梨子も予想外だった。地震のように地面が大きく揺れたのでその場にしりもちをついてしま
ったが、周囲の建物にしてみれば致命的な一撃だった。震度7を越える巨大局地地震によって全て崩壊して
しまい、地面には巨大な穴やひび割れが発生したからだった。
「あーあ。とうとうやっちゃった……。私も負けないから!」
すぐに亜梨子も立ち上がった。一瞬真夜に微笑みかけると、平然とジャンプして少し離れた場所に着地する
。しかも、二度も三度も……。その度に巨大な地震が発生して、街は壊滅していく。
「やりたい放題だね……」
「いいじゃない。最後だから派手にやっちゃった♪」
いつの間にか亜梨子は、遊園地の中央に立っていた。さっきは戦って壊滅させたのだが、2回目は亜梨子の
起こした地震によって壊滅して、観覧車は亜梨子のローファーに踏み潰されていた。
「それにしても、壊す建物も無くなったわね」
「あんなに派手にやれば当然だけどね。……これでゲーム終了でいい?」
「えー。まだ暴れ足りない……。もう一度街を用意して。で、身長を30倍サイズにして。服装変えて大暴
れするから」
「今日はもういいじゃない」
「……また呼んでよ。呼ばないと許さないから」
「分かったよ。君と遊ぶと楽しいからね。今度は実在する街を用意してあげるよ。東京壊滅作戦なんて面白
いんじゃないかな?」
「だったらわたしはコスプレするわ。色々な服装で暴れるのは楽しそうじゃない」
「分かった分かった。また呼ぶからそれで勘弁して。……そろそろ元の世界に戻すよ。不思議の国の少女・
亜梨子」
「……うん。アリスはやっぱり元の世界に戻るのね」
「それがお約束だよ。じゃ、また呼ぶから」
それが最後の言葉だった。真夜の魔法によって、不思議の国に降り立ったアリスは元の世界に戻っていった
からだった。
一人残された真夜は、すっかり壊滅した街を眺め回すと……満足そうに笑った。
「しかし、とてつもない破壊衝動を持つ子だったな。あの子を主人公にすれば幾らでもクラッシュ系作品が
作れそう。不思議の国だって財政が苦しんだから少しは助けて欲しいな」
……その後。
亜梨子は何度も不思議の国に誘われては、巨大化して大暴れを繰り広げた。少女は毎回服装を変えては破壊
の限りを尽くし、街は実在するものも含めて何十回も破壊されたが、損した者は誰もいなかった。
不思議の国は亜梨子の大暴れぶりをDVDなどに収録して売りさばくことで財政が少しは改善したし、亜梨
子も破壊衝動を発散させては満足したからだった。
そして今日も……。
「さあ、今日も盛大に壊すわよ。覚悟しなさい!」
アリス風の衣装に身を包んだ亜梨子の声が、再現された街並みに響き渡る。身長500メートルにまで巨大
化したアリスが東京を怪獣のように蹂躙する瞬間が目の前に迫っていた。
その光景が全て映像に収録されている事を知らないのは……暴れている本人だけだった。