またどこかで新たな爆発が発生したようだった。
さっき追いかけっこの舞台となった大通りの車が爆発したのだろうか。
また黒煙と炎が上がった事に気づいて、お洒落な制服姿の亜梨子(ありす)はいよいよ取り返しがつかなく
なった事に気づく。
最悪の状態ね。わたしは元の世界に戻りたいだけなのに、街はめちゃめちゃになっていくだけ。今だって瓦
礫を踏みつけているし。
そう思いながら自分の立つ位置を確かめる。
かつてはビルが幾つか立ち並んでいたはずだったが、気がつくと全て崩壊していて、わずかに残された土台
も黒のローファーで踏みつけられている。
言うまでもなく、身長48メートルに巨大化した亜梨子が蹴散らしたのだった。
でも仕方ないわよ。どうしても邪魔だったんだから。そうじゃないと追いつけそうになかったんだから。
思わず、少し先に悠然と立つ追いかけっこの相手を睨みつける。
短い髪に少年のような顔だち、Tシャツに黒のジーンズ生地のジャンパー、半ズボンにソックスとスニーカ
ー、そして白い兎の耳と尻尾を持つ少女……真夜(まよ)は大通りの車を踏み潰したまま、悠然と立って
た。身長47.4メートルの巨大兎少女だったが、彼女のせいで亜梨子は不本意ながらも街を破壊しながら
の追いかけっこをやらされたのだった。
「もう疲れたの? お嬢様みたいな外見だからやっぱり体力無いのかしら」
相変わらず澄ました顔と声で、真夜と名乗った少女が言葉を投げかけてくる。
「私に追いつけないといつまでたっても戻れないわよ。それでもいいの?」
「良くないじゃない。でもあなたが逃げるから……!」
 挑発に感情が爆発して、亜梨子は丈の長いスカートを翻して瓦礫を蹴った。
半壊したマンションをすらりとした足だけで破壊し、通りの車をスクラップに変えながら真夜に飛び掛かろ
うとする。
しかし、それを読んでいた兎少女が簡単によけたので、亜梨子は両手を前にして無傷だった住宅街に飛び込
んでしまった。
白を基調とした瀟洒な制服の下で建物が次々に瓦礫となっていき、スカートから伸びる足もまた、背の低い
マンションにぶつかってその正面を粉々にする。
潰された車が爆発して黒煙を吹き上げ、倒れた電柱に絡む電線が火花を上げたが、亜梨子自身は無傷のまま
だった。    
「また壊しちゃった。酷い事するわね。私を捕まえる為に街を壊すなんて」
「あなたが逃げるからじゃない。あなたが……」
全身で住宅街を潰していた亜梨子が体を起こした。瓦礫の上に座り込んだまま髪をかき上げ、真夜を睨みつ
ける。既に制服は埃まみれになっていたが、最早気にしている余裕もなかった。
「私は無理強いはしてないわ。私を三回捕まえれば元の世界に返して上げるって言ってるじゃない。でもま
だ一回も捕まえていない。それだけの話」
「無理よ。本物の兎みたいに素早いんだから」
「当然でしょ? 私はこのゲームを司る<破壊兎>。もっと壊してくれないと面白くないじゃない。せめて
この街全部は瓦礫にしてくれないと困るわね」
何も言わずに、亜梨子は立ち上がった。制服から落ちる小さな瓦礫にも構わず、ローファーで壊した建物を
踏み潰しながら辺りを見回す。
気がつくと、かなり大きな都市の一部は完全に壊滅していた。
「酷い……。こんなにしちゃうなんて」
「巨大化してるから当たり前じゃない。さてと、ここでちょっと提案。今から私と直接戦って勝ったら、私
を一回捕まえた事にして上げる。どう?」
「戦って勝てばいいの? だったらそれでいいわ」
「ふーん。勝てると思ってるんだ。とにかく、舞台はあそこよ」
「え? 遊園地……?」
「そ。大きいでしょう? あそこの敷地をリングにして戦うの。武器も自由に選んでいいわ。私はそうね、
これにしようっと」
少年のように快活に笑って、真夜は瓦礫の中に残っていた高圧電線塔を軽々と引き抜いた。根元をねじ曲げ
て持ち易くすると構えて見せる。
信じられない物を平然と武器にする少女が内心恐ろしくなっていた亜梨子だったが、無理やり押さえ込むと
、自分も高圧電線塔を引き抜いて両手に持つ。
武器無しでは勝てる相手は到底思えなかった。
「絵になるわね。赤白の電線塔を手に持ったまま巨大化した制服少女って。遊び甲斐があって面白いわね」
「それより、勝負よ! 勝負!」
「はいはい」
平然と受け流しながら、真夜が歩き始めたので、亜梨子もそれに続いた。
その先には、<戦場>に指定された大型の遊園地が破壊される瞬間を待っていたのだった。

二人の巨大少女は、当たり前のように建物などを壊しながら歩いていた。
真夜はそれこそはしゃぐように立ち塞がるビルなどをすらりとした足で破壊していたし、亜梨子もいささか
躊躇いながらもその後に続いていたからである。
わたしも慣れちゃったわね。こうやって街を壊してしまう事に。
ローファーで住宅を軽く蹴散らして、巨大な制服少女は思った。
最初はそんなつもりなんかまったく無かったのに、こうでもしないと戻れないから……。そもそもどうして
わたしがこんな事をしないといけないの?
「もちろん、遊んでみたかったから」
思いついた事を言葉にして真夜にぶつけると、当然と言わんばかりの返事が返ってきた。
「だってその制服が似合う清楚な女の子が怪獣のように街を壊してしまうんだから。破壊兎としては見逃せ
なかったの」
「そんなの理由にしないで!」
「立派な理由になると思うけどね」
言い切って平然と笑う。その不敵な微笑を見ている内に。亜梨子は彼女に会った時の事を思い出していた。

「え……? どうなっているの?」
突然その場所にいると分かった時の第一声はこれだった。
道を歩いていたら突然目の前が暗くなって、気がついたらいつもの制服姿のまま見知らぬ街の通りに立って
いたからである。
但し、身長48メートルにまで巨大化して。
周囲には小さな住宅やビルが密集し、足元の道路には車があったが、なぜか人の姿だけは見えなかった。
悪戯なのかしら? どっかの映画のセットみたいだけど……リアル過ぎるわね。でもこんな大きいと歩けな
いじゃない。
一歩を踏み出そうとした瞬間、電線が足に絡んできて亜梨子は慌てた。足場を作ろうにも車が多くて不可能
に近かった。
どうしたらいいの? そもそも、何が起きたの?
「ようそこ。巨大少女による破壊と爆発炎上が織りなす不思議の国へ」
突然、少年のような少女の声が耳に届いて、亜梨子はその方向を見た。
そこには、ボーイッシュな姿をした兎耳少女が悠然と立っていた。
足元では何台か車を潰している事を気づいて、巨大化した少女は驚く。
「私は真夜。あなたをここに呼び寄せたのは私。ちょっと遊び相手になってほしかったの」
「遊び相手? 何をする気?」
「簡単な話。私が逃げるからあなたは追いかけて捕まえればいいだけの話。3回捕まえたら帰してあげるか
ら」
「だったら簡単ね。こう見えても走るのには自信があるの」
「そう? じゃあ私がこんな風に逃げても捕まえられるの?」
いきなり。
巨大な兎少女……真夜が動き出したのはその時だった。あっと思うよりも早く、ソックスとスニーカーに包
まれた巨大な足が通りにあった車をスクラップに変えていく。一部が爆発炎上して、黒煙が吹き上がったが
真夜は気にしている風ではなかった。
「この街は私とあなたが追いかけっこをして徹底的に破壊し尽くす為だけに用意したの。ちなみに見て分か

る通り、どんなに建物を壊しても怪我は絶対にしないし、爆発炎上に巻き込まれても平気。だから遠慮はし
ないで」
「そう言われても……」
亜梨子はただ呆然としていた。
自分の置かれている状況が理解できなかったから当然かもしれなかったが、それに気づいて真夜は止めの言
葉を投げかける。
「もし私を3回捕まえられなかったらいつまでたってもこの空間からは出られないけど、いいの?」
「え?」
「私は破壊兎だけど鬼じゃないの。3回捕まえたら間違いなく帰すわ」
「でも……」
「躊躇ってるけど、この街は実在しない街だから幾らでも壊していいの。むしろめちゃめちゃにしてほしい
わね。それが見たいんだから。さて、私は逃げるから」
「あっ……」
とっさに手を伸ばして、見えない何かを掴もうとするよりも、真夜の行動の方が早かった。巨大化したボー
イッシュな少女は、躊躇なくまだ壊されていない住宅街に足を踏み入れたからだった。建造物が破壊されて
ただの物になっていく音が派手に響き渡り、電線を断ち切られた電柱が倒れて火花を散らす。停まっていた
車がスクラップになり、蹴散らされる。気がつくと、真夜の歩いた後には瓦礫と巨大な足跡だけが残されて
いた。
「追いかけないの? 早くしないともっと逃げるから」
「……」
亜梨子としてはこのまま何もせずに終わりにしたかった。
目の前に広がる町並みを壊しながら、兎のような少女と追いかけっこをするのは悪夢でしかなかった。
しかし。
やるしか……ないのね。そうじゃないと戻れないっていうなら。こんなに大きくなっていれば壊すのも平気
だし、怪我もしないって言ってるから。
心の中で言い訳を重ねるに連れて、躊躇いが少しずつ消えていく。今すぐ戻りたいならば、何もしないわけ
にはいかなかった。
「だったら、やるわ。きっと捕まえて見せるから」
「簡単には捕まらないよ」
この短いやり取りが、想像を絶する破壊劇の始まりだった。

亜梨子が追いかけっこの始まりまでを回想し終えたのは、戦場に指定された遊園地の駐車場まで来た時だっ
た。躊躇い無く足を踏み入れて停まっていた車を蹴散らすと、足場を作って立ち止まる。
「ここから始めてみる?」
少年のように笑いながら、真夜が声をかけてくる。
彼女もまた当たり前のように周囲の車を踏み潰し、高圧電線塔を片手で構えていた。背景には観覧車やジェ
ットコースター、そして色々な施設が立ち並ぶ遊園地があったが、後30分もしない内に完全に壊滅するは
ずだった。
「いいわよ。きっと勝って見せるから」
「そう言いながら一度も勝ってないじゃない。私はただ逃げてるのに捕まえられないし」
「あんなに素早いのに捕まえられるわけないじゃない!」
「そうかしら? これでも手加減したつもりよ」
「もう……許さない。絶対に勝ってやるから。今までの分全部お返ししてあげる!」
「本当に勝てると思ってるんだ。まあいいけどね。もう一度思い返してみるといいよ。どうして君が私を捕
まえられないのか」
真夜が言い切るのと同時に。亜梨子は追いかけっこを始めてからの事を思い浮かべていた。

亜梨子が最初の一歩を踏み出したのは、決意を固めた直後の事だった。そっとローファーに包まれた足を上
げると、足元の車の上に下ろしたからだった。
「あっ……」
多少は抵抗があるかと思ったが、実際はあっけないものだった。犠牲になった車はおもちゃよりも簡単に潰
れてしまったからだった。
「そんなにちまちまと壊さないでもっと壊してみたら? 私みたいに」
すかさず、真夜が挑発してくる。
ボーイッシュな巨大兎少女は、自分で壊滅させた住宅街を足場に仁王立ちになっていた。周囲では火災すら
も発生していたが、気にしている風では無かった。
「でも、こんなに建物があるのに……」
「大丈夫。そこまで巨大化すると幾らでも壊せるから。それにその制服姿で大暴れすると魅力的だし」
「そんなの理由になってないじゃない」
「私にとってみれば立派な理由よ」
相変わらす馬耳東風な真夜に、亜梨子は少しずつ腹が立ってきた。あの澄ました顔を困らせてやりたい。
そんな衝動が生まれるのと同時に、制服姿のまま巨大化した少女は躊躇いを捨てて歩き始めた。
最初に犠牲になったのは、道路を跨いで張られていた電線だった。白いソックスに包まれた足によって断ち
切られ、火花を散らしたからである。同時に何本か電柱も倒れて、無傷だった車や住宅を巻き込む。そこに
襲いかかってきたのは、巨大な黒のローファーだった。あえて何も考えずに突き進んできた亜梨子の怒りが
乗り移っていたこともあって、呆気なく全て壊されたからである。
本当に簡単に壊れるのね。楽じゃない。
片っ端から道路上の車を壊滅させながら、亜梨子は今まで経験した事が無い不思議な感情が芽生えていくの
を感じていた。それは……破壊衝動だった。
わたしは怪獣。可愛い制服を着てるけど、この街を壊滅させる事も出来る怪獣。何をしても許されるんだか
ら!
ためらいを消す為に、心の中で自分に言い聞かせると、壊したばかりの車を盛大に蹴り上げる。ふわりとス
カートが翻り、スクラップと化した車は住宅街に落下して新たな破壊を演出する。
「さあ、その調子で私を追いかけてみて」
ようやく亜梨子が本気を出してきたのに気づいて、真夜は笑いながら挑発した。
そのまま、まだ壊していない大通りに出て車などを踏みつける。
「行くわよ。絶対捕まえてやるんだから」
言い切った瞬間、亜梨子はついに方向を変えて住宅街へと足を踏み入れた。立ち並ぶ建物をソックスとロー
ファーに包まれた足だけで蹴散らしながら突き進み、一気に真夜との距離を詰める。足元で瓦礫になってい
く住宅は気にならなかった。ただ、邪魔でたまらなかった。
「いい感じいい感じ。可愛い顔をしてるのに躊躇わずに壊すところは最高ね」
「からかうのもいい加減にして。えいっ!」
行く手をマンションが塞いでも、亜梨子は止まらなかった。
なんとスカートにも構わず蹴りを浴びせて、中央部から分断してしまったからだった。巨大な少女の攻撃に
よって、建物は無残な姿を晒す事になったが、亜梨子は容赦せずに踏み潰して歩き続ける。その背後には巨
大な足跡や、瓦礫となった建物が散らばって、少女の破壊力を物語っていた。
そろそろ捕まえられるわね。簡単じゃない。逃げようともしないし。
悠然と立っている真夜の姿を目の前に捕らえて、亜梨子は勝利を確信した。邪魔な建物を蹴り壊し、一気に
間を詰めたその時だった。
「はい残念でした」
余裕に満ちた言葉と同時に、巨大なボーイッシュ少女の姿が視野から消えた。慌てた時には遅く、バランス
を崩した亜梨子は飛び込むようにして大通りに転がってしまった。綺麗な制服の下敷きになって車やバス、
トラックがまとめて破壊されていく。とっさに伸ばした手は周囲の住宅を壊滅させただけでは済まず、通り
に面していたビルのガラスを粉々に砕く。
「そんな正面からの攻撃、誰だって避けられるわ。単純なのね」
半回転しながら、亜梨子は体を起こした。痛くなかったのは幸いだったが、ちょっと動いただけでさらに建
造物が破壊され、制服からは瓦礫が落ちる。両足は大通りに投げ出され、壊された車が陥没した道路に落ち
込んでいる始末だった。
「卑怯じゃない、逃げるなんて!」
「私は逃げるわよ。そうじゃないとゲームにならないから。でも絵になるわね。制服姿のまま巨大化して瓦
礫の上に座り込む女の子って。やっぱりあなたを呼んで正解だったわね」
「うるさいわね……」
ゆっくりと亜梨子は立ち上がった。怒りに満ちた視線を真夜に向け、瓦礫を蹴散らしながら飛びかかる。し
かし、それを予想していた兎少女は簡単に避けると、軽く足払いをかけた。
「えっ……きゃっ!」
女の子らしい悲鳴を上げたものの、結果は最悪だった。亜梨子はなんと、通りに面していたマンションに体
当たりしてしまったからである。一瞬の内に建物は崩壊し、その瓦礫が周囲をさらに壊滅させる。想像を絶
するような破壊劇だったが、亜梨子は気にしていなかった。両腕でマンションの残骸を壊しながら立ち上が
ると、真夜を睨みつけたからである。
「恐い恐い。というわけで私は逃げるわね」
「待ちなさい!」
こうなると、後は衝動しか残らなかった。逃げる真夜を追いかけて亜梨子は破壊活動を続けたからである。
飛びかかろうとして失敗して、住宅街を瓦礫に変える。通りからトラックやバスを掴み上げて投げつける。
ガスタンクをボールに見立てて叩きつけ、周囲を大爆発させる。歩道橋を引き抜いて投げつけ、無理やり足
止めする。
それでも、真夜はまったく捕まらなかった。
「もう疲れたの? お嬢様みたいな外見だからやっぱり体力無いのかしら」
 相変わらず澄ました顔と声で、真夜が声をかけてきたのは、街の四分の一が壊滅した時だった……。

「どう? 貴方がちっとも私に敵わないのは分かったかしら?」
悠然と、真夜が声をかけてきたのは、アリスが回想を終えた直後のことだった。その方向を見ると、ボーイ
ッシュな巨大娘は武器代わりの高圧電線塔を肩にかけて笑っていた。
「でも、私も鬼じゃないからちゃんと機会を与えて上げる。この遊園地とそ周囲を舞台に戦って勝ったら、
1回捕まえた事にするから」
「本当なの? 勝っても約束は無しと言うのは嫌なのよ」
「それはないよ。まあ、勝ってから言う事だね」
何も言わないまま、亜梨子は手にしていた高圧電線塔を握り直して構えた。自分でもとんでもない事をして
いるという意識はあったが、罪悪感を覚える余裕はなかった。
「そろそろ始めるかい? じゃ、いくよ!」
真夜が宣言するのと同時に、ついに巨大化した二人の少女による最悪のバトルが始まった。

最初に仕掛けたのは、亜梨子の方だった。長い黒髪を揺らし、制服のスカートを翻しながら真夜に襲いかか
ったからである。足元では停まった木の葉のように蹴散らされ、一部が爆発炎上したが、その煙すらもかき
分けながら手にしていた電線塔を振り下ろす。しかし、真夜はそれを読み切っていた。
「だから直線的な動きでは勝てないって」
平然と言い切ると、バランスを崩した亜梨子に足払いをかける。たったそれだけで巨大化した制服少女は派
手に転んで、そのままの勢いで遊園地の正門を背中で破壊する。瀟洒に飾りつけられたそれも簡単に崩壊し
瓦礫と化したが、亜梨子はすぐに上半身を起こした。そこから反撃に出ようとしたが、真夜は容赦しなか
った。悠然と近づいてくると、いきなり高圧電線塔を叩きつけてきたからである。痛くないとはいえ衝撃は
まるで吸収できず、亜梨子はスカートも半分まくれた状態のまま遊園地の敷地内へ転がる。身長50メート
ル近い巨体の下で次々に小さな施設や壊されていき、伸ばした手や足が、立ち木などをなぎ払う。
「いい感じいい感じ。綺麗な遊園地をめちゃめちゃにしてしまう巨大な制服少女。こういうのが見たかった
んだから」
勝手な事を言いながら、真夜も遊園地に足を踏み入れた。スニーカーに包まれた足で瓦礫を蹴散らしながら
体を起こしたばかりの亜梨子を無理やり立ち上がらせる。
「こんないけない事をする女の子にはお仕置きが必要だな。それっ!」
巨大化した制服少女が抵抗する余裕も無い速攻だった。思い切り力を込めて突き飛ばされて、背後にあった
ジェットコースターのレールの上にしりもちをついてしまったからだった。派手な音が響き渡り、白いレー
ルは簡単に崩壊してしまう。
「やったわね……。もう許さない!」
散々ひどい目に遭わされて、ついに亜梨子は本気になった。悠然とした態度を崩さないまま近づいてくる真
夜を見るなり、スカートなどから瓦礫を落としながら立ち上がったからである。それだけならまだしも、足
元に落ちていた壊れたレールを拾い上げると、思い切り投げつける。
「おっと。この程度では……」
不意をつかれながらも難なく避けた真夜だったが、その後の攻撃は予想できなかった。長い髪を振り乱しな
がら、亜梨子が飛びかかってきたからだった。和風な美少女の鬼気迫る逆襲を正面から受け止めてしまい、
ボーイッシュな巨大少女はついに瓦礫の上に転がされてしまう。伸ばした手がまだ壊されていなかった休憩
所などを壊したが、亜梨子はぼろぼろになった高圧電線塔を拾い上げると、思い切り叩きつけた。たったそ
れだけで鉄塔はばらばらになり、破片が周囲に飛び散る。
「この程度では済まさないわよ!」
思いがけない反撃に真夜が驚く余裕を与えないまま、亜梨子は攻撃を続けた。肩を掴んで立ち上がらせると
お返しとばかりに中央広場に投げ飛ばしたからだった。スニーカーに包まれた足で地上の施設などを全て
壊滅させながら、バランスをとろうとした真夜だったが、巨大化した制服少女の体当たりを正面から受け止
めて、色々な遊具の立ち並ぶ地区に転がってしまった。その上に亜梨子が組みついてきたので、思い切り力
を込めて突き飛ばす。戦い慣れていない事もあって、亜梨子はあっさりと体勢を崩してしまい、まだ壊して
いなかったジェットコースターをさらに壊して座り込んでしまう。
「思ったよりやるのね、貴方も」
さらに建物を壊しながら体を起こして、真夜は本心から言った。半ズボンから伸びるすわりとした足は中央
広場を壊滅させていたが、なぜか絵になっていた。
「当たり前じゃない。どうしても勝ちたいんだから」
すっかり汚れた制服姿の亜梨子は、ジェットコースターの搭乗口付近をスカートの下で潰していた。それで
も、近くにあったレールの一部を掴むと軽々と持ち上げる。
「お蔭で夢の国もめちゃめちゃね。見てよ。この惨状」
笑いながら言い切った真夜の言葉に、亜梨子はきょとんとして周囲を見回した。ほんの五分前まではまった
く壊されていなかった遊園地は、二人の巨大少女が戦場とした事で、既に半分が壊滅していた。入り口から
中央広場に続く部分は全ての建物が崩壊し、巨大な足跡や転がった跡があちこちに残っている。ジェットコ
ースターは半分以上のレールが破壊され、壊された部分が無残に垂れ下がっている。その背後にはさっきま
で追いかけっこをして破壊した地区が広がり、亜梨子が叩きつけたガスタンクによって発生した火災がなお
も広がっていた。
「凄い破壊力じゃない。可愛い制服が似合うのに、破壊行為となるとえげつないのね」
「仕方ないでしょう……って、そんな話をしてる場合じゃないの! いくわよ!」
「はいはい」
いきなり、亜梨子が手にしたままだったレールを投げつけてきたが、真夜は難なく避けた。
遊園地を舞台とした巨大少女同士の戦いは、まだまだ続きそうだった。

幾ら追いかけても、兎の耳と尻尾を持つボーイッシュな少女……真夜は捕まりそうになかった。
気がつくと、戦場は遊園地の中央部から東側に移り、亜梨子は破壊された施設を足場に構えていた。
「いかないならこっちからいかせてもらうよ!」
笑いながら言い切って、身長50メートル近い巨大少女が攻撃に出た。
瓦礫がソックスとスニーカーに包まれた足によって蹴散らされたが、亜梨子は正面から受け止める。受け止
めたつもりだったが、力負けしてそのまま突き飛ばされてしまった。その先にあったのは、遊覧船も浮かぶ
大きな池だったが、バランスを崩した巨大制服少女はその中に落ちてしまった。
想像を絶するような水しぶきが上がり、まるで滝のように戦場と化した遊園地に降り注ぐ。さすがの真夜も
びっくりしたようだったが、いきなり飛んできた何かを簡単に弾き飛ばす。何とそれは、遊覧船そのものだ
った。
「おいおい。そんなもの片手で投げるなよ」
弾き飛ばされた遊覧船が、ジェットコースターのなれの果てを巻き込んでばらばらになったのを見ながら、
真夜は呆れたように言った。しかし、亜梨子は何も言わずに水の減った池の中に立ち上がった。お洒落な制
服はびしょ濡れになり、漆黒の髪からは水がしたり落ちていたが、不思議と色っぽかった。
「水も滴るいい女、だね。だったらこっちもそれなりに相手してやらないと」
亜梨子が池から上がるのに合わせて、巨大なボーイッシュ少女はとんでもない行動に出た。まだ無事な地区
を蹴散らしながら歩くと、何と自分の背丈近くはある観覧車を地面から引き抜いたからである。平然とした
顔で、両手で持ってみせる。
「そんな……。それを武器にする気?」
「もちろん、いくよ!」
言い切って、真夜はさらに瓦礫を蹴散らしてダッシュした。慌てて亜梨子は水から上がったものの、何もで
きないまま正面から受け止めてしまう。それだけならまだしも、巨大化した兎少女が力を込めてきたので、
まだ残っていた施設を壊しながら後退してしまった。
「酷いな……。遊園地がめちゃめちゃじゃない」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
かつては色々な遊具だったはずの瓦礫を踏みつけながら、亜梨子は自分に押しつけられていた観覧車を手で
掴んだ。びっくりする相手に構わず、力任せに振り回す。不意を突かれたのか、真夜は最大の武器を奪い取
られて、その場に転がってしまった。
「今度はこっちからいくわよ!」
それを見て、亜梨子はようやく逆襲に転じた。既に原形を失っている観覧車を両手で持って、転がったまま
の真夜に思い切り叩きつけたからだった。
派手にゴンドラが飛び散り、大型の観覧車も力だけでねじ曲げられてしまったが、亜梨子は二度三度と叩きつけてしまう。
「これでも気が済まないわね……」
それでも、巨大な制服少女の攻撃は止まらなかった。観覧車を力任せに投げ捨てて遊園地に止めを刺すと、
真夜を無理やり立ち上がらせたからだった。
「これでわたしの勝ちね! えいっ!」
真夜に反撃の余裕を与えない速攻だった。濡れた制服や髪から水滴を散らしながら、遊園地の外へと投げ飛
ばしたからだった。そこにあったのは遊園地に客を運ぶ為に整備されていた鉄道の駅と駅前広場だったが、
当然の事ながら身長50メートル近い少女の巨体は受けられなかった。ソックスとスニーカーに包まれた足
が道路上の車を全て破壊し、スクラップに変える。何もできないまましりもちをついて、広場にあったバス
ターミナルやバス、タクシーを短パンに包まれたヒップで潰してしまう。上半身は駅の中央部に背中から叩
きつけられて、そこにあった電車すらも2、3両巻き込んでめちゃめちゃにする。そして、両腕は巨大な質
量を伴った鞭と化して、駅のホームなどを簡単に破壊してしまった。
「凄い……。こんなに簡単に壊れるなんて」
口ではそう言いながらも、亜梨子はとてつもない破壊劇に興奮していた。軽やかなステップで瓦礫を蹴散ら
しながら遊園地を出ると、横になってしまった真夜を見下ろす。
「さあ、これでわたしの勝ちね」
「もちろん。あーあ。派手にやっちゃったわね」
まるでダメージを受けていない様子で、真夜が体を起こした。背中からは電車や駅の破片が落ちてきたが、
平然と自分が壊した電車の一部を持ち上げる。
「見かけによらず強いね、きみは。でも次は負けないわよ」
「負けないから。でも、巨大化して建物を破壊するのがこんなに快感だったなんて思わなかった……」
「どんな人間でも破壊衝動はあるのよ。でも、普通では出来ないから私が手助けしてあげるの」
「そうみたいね……」
生返事しながら、亜梨子は真夜の横に膝をついた。手だけでさらに駅を壊しながら、電車を持ち上げる。
「一番面白そうなのは電車壊しね。怪獣映画のお約束じゃない。これを武器にするの。こーやって」
「だから叩きつけないでよ。今回はきみの勝ちなんだから」
「正直、追いかけっこはどうでもよくなってきたわね。もっともっと建物とかを壊したいの。原形を失うま
で壊して、蹂躙して、炎上させて……。挙げ句のはてに何でも武器にしてしまうの」
「いい心がけだけど、追いかけっこは続けるよ。ここまで凄い破壊衝動を持つ女の子は久しぶりだからね
「受けて立つわよ。でも、この制服どうにかならないの? びしょ濡れだし」
「あそこでガスタンクとかが炎上してるから乾かすというのもありだけど、ここはちょっとサービス。好き
な私服を思い浮かべてみて」
「うん……」
真夜の言葉に従って亜梨子が服装を思い浮かべるのと同時に。巨大化した制服少女は一瞬の内に変身した。
プリントTシャツにブルーのチェック模様のスカート、スタジャン風のジャケット、膝までの長さの黒のソ
ックス、そして赤のコンバーススニーカー。長い髪はうなじの当たり軽く束ねていた。
「意外と活動的なのね」
「シンプルでいいでしょう? でもこの服装なら幾らでも暴れられそう。さ、続き続き!」
「はいはい」
苦笑いしながら、真夜は立ち上がった。そのまま破壊された駅を足場に構える。
「さあ、私を捕まえてみて。今度はうまくやる事を期待してるわ」
「もちろん!」
いきなり、真夜が鉄道の線路を壊滅させながら走り出した。私服姿になった亜梨子も、ためらい一つみせず
にばらばらなった架線などを巻き上げながら追いかける。
この時点ではまだ、舞台となっている街はそれなりに原形を留めていたのだった……。